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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)556号 決定

抗告人 土屋忠利

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙執行抗告状及び理由書と題する書面に記載のとおりである。

二  ところで、抗告人は、本件建物は抗告人が昭和五四年二月一階部分を件外土屋建設工業株式会社に、二階部分を件外小川洋に賃貸し、以来同人らに賃貸中のもので、抗告人は占有していないから、抗告人に対して引渡を命じた本件引渡命令は違法である旨主張する。

しかしながら、仮に抗告人が本件建物を主張のように他に賃貸中のものであるとしても自ら間接占有していることは否定できないから、抗告人の主張は既にその点において失当といわなければならない。

のみならず、民事執行法上不動産が競売され、買受人が代金を納付した場合、同買受人は執行裁判所に対し債務者に対する引渡命令の発付を求めることができ、その場合、債務者は右不動産は他に賃貸中で自己において占有していない旨を主張して右引渡命令の発付を拒むことはできないものと解すべきである。何故ならば、そもそも右の場合債務者としては買受人に対し当該不動産の引渡義務を負っているのであるから、仮に同不動産を他に賃貸し現に直接これを占有していないとしても、そのことは、債務者としての権利義務に何らの影響を及ぼすものではないからである。

加うるに、本件記録中の東京地方裁判所執行官高橋肇作成にかかる昭和五六年二月一六日提出の本件建物の現況調査報告書によれば、本件建物は同月四日、五日、一四日の調査当時債務者兼所有者である抗告人がその妻及び子供二名とともに現に居住占有中で、抗告人自身右執行官に対し他への賃貸関係はない旨陳述していることが明らかであり、右事実に照らすと抗告人提出にかかる建物賃貸契約書二通は信用することができず、抗告人主張事実は到底認めることができない。

三  以上の次第で、いずれにしても本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 吉野衛 小川昭二郎)

〈以下省略〉

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